【金融スクープ】マグマがどこで爆発するのか…中小企業の黒字倒産の恐怖

　「２月の企業倒産件数はいま集計中ですが、前年同月比で減少し、初めて１０００件を下回るのでないかとみています。これで倒産件数が前年同月比で減少するのは１９カ月連続となります」

　大手信用情報機関の幹部は、足下の企業倒産の現状をこう指摘する。しかし、表面上の数値とは裏腹に、その実態は「景気対応緊急保証制度や中小企業金融円滑化法などの金融支援策により企業倒産が封じ込まれている状態でしかない」（大手信用情報機関幹部）という。先行き不良債権化しかねない中小企業の倒産マグマは、水面下では張り裂けんばかりに膨れ上がってきている。

　そうした中、懸念されているのが、景気回復局面における中小企業の黒字倒産である。「４～６月にかけて急増する可能性あります」（同）という。引き金をひきかねないとみられているのが、４月からスタートする「セーフティネット保証５号」と呼ばれる金融支援である。

　中小企業の倒産を防止する「景気対応緊急保証制度」は、この３月末で終了する。「セーフティネット保証５号」は、その後継の不況対策となるが、中小企業が支援を受けるためには、指定業種に属する事業を行っており、かつ、（１）最近３カ月間の月平均売上高等が前年同期比５％以上減少　（２）製品等の売上原価のうち２０％以上を占める原油等の仕入価格が、２０％以上上昇しているにもかかわらず、製品等価格に転嫁できないこと－のいずれかを満たすことについて、市区町村の認定を受けることが条件になっている。

　確かに、セーフティネット保証５号では、「売り上げが前年との比較で増加していても、２年前との比較で１０％以上減少している業種は対象とする」などの企業の売り上げ増加への一定の配慮はなされているが、「中小企業の前向きな資金需要に応えるには手薄と言わざるをえない」（地銀幹部）と指摘される。

　大企業の業績回復につれて、中小企業の中にはアジアの需要をうまく取り込み売り上げを伸ばし始めたところも出てきている。そうした資金需要に応える有効な金融支援を講じなければ、中小企業の地盤沈下は食い止められない。その結果、売り上げが伸びるなど、経営が上向いた矢先に黒字倒産する、泣くに泣けない中小企業が続出する事態も想定される。

　一方、中小企業金融円滑化法も２０１２年３月まで１年間延長され、中小企業の倒産防止に機能しているが、内実は、「貸し出し条件の緩和について、１度ならず、２度目の見直しを要請する中小企業が続発しており、先行きの不良債権化が懸念される状態にある」（地域金融機関幹部）という。

　そのマグマがどこで爆発するのか、「中小企業金融円滑化法の適用期限と、地域金融機関等への公的資金の注入が行える改正金融機能強化法の最終期限が同じ２０１２年３月末とされているのは気にかかる」（同）という声も聞かれる。

　２兆円もの予算措置がなされている改正金融機能強化法だが、いまだ申請は少額にとどまっている。２０１２年３月末に向けて中小企業の倒産増加、地域金融機関の資本不足、改正金融機能強化法に基づく地域金融機関への公的資金の注入－という流れにならないことを祈るばかりだ。

■森岡秀樹（もりおか・ひでき）１９５７年、福岡県出身。早大卒。経済紙記者、埼玉県芸術文化振興財団常務理事などを経て２００４年４月、金融ジャーナリストとして独立。